「はあああ!」

振り下ろされる鞭より発せられた風は魔力を帯びて刃の固まりとなり士郎目掛けて突っ込んでくる。

勿論だがそれに巻き込まれれば士郎は原型を残す事無く肉塊となる末路しか残されていない。

「空気領域(ゾーン・エアー)、我が周囲の空気は翼となり我、天を舞う(ウィング・エアー)」

当たり前の事だが、肉塊になる気など更々無い士郎は即座に刻印を使った浮遊魔術を展開、上空高く舞い上がり、攻撃を回避する。

「甘く見るな・・・エミヤ・・・風よ!」

だが、バルトメロイも高速で詠唱を行うや自身の身体を上空に飛翔させる。

見ればバルトメロイの背中にも空気で作られた翼がはためいていた。

「あんたも使えたのか」

「使いたくはなかったが・・・忌々しきエミヤが残したものの一つだ」

短く吐き捨てるように言い放ち、バルトメロイは浮遊から飛行に移行し、士郎に襲い掛かった。

四十八『真実』

「!!」

襲い掛かるバルトメロイに呼応して士郎も飛行に移行、攻撃をかわす。

だが、速度も空中運動、全ての面でバルトメロイが上手、守勢に回ってしまう。

所詮会得して一月すら経たぬ付け焼刃と憎しみと恨みと共に長年研鑽を積んできた差。

それが如実に出てきた。

「っ、我が周囲の空気更なる翼となり我風となる(ジェット・エアー)」

士郎が翼を増やし速度を上げて距離を取ろうとしても

「それで速度を上げたつもりですか?」

バルトメロイもまた同じ、いやそれ以上に速度を上げると士郎に肉薄する。

「あっけないですがこれで終わりです」

そう言い鞭を振りかざし士郎の背中目掛けて振り下ろす。

「我が周囲の空気は鋼鉄となし、我の敵全て阻む(アイアン・エアー)!!」

だが、寸前で士郎の詠唱が間に合い士郎の周囲に鉄の壁が生み出され、防壁を作り出す。

「無駄です」

それに顔色を変えることもなく少し力を入れるだけで鋼鉄の壁は破壊されそうになる。

しかし、士郎も既に対策は取っている。

「形状変更(エアー・オフェンス)、空気の壁は空気の散弾となり、周りの敵をなぎ払う(ショット・エアー)」

壁は散弾となりバルトメロイに襲い掛かる。

「ちぃ!」

流石にこの不意打ちには、やや慌て、外套で防御体勢を取る。

そこに更に追い討ちをかける士郎。

「我が手に集まりし空気、砲弾となり我が敵を滅ぼす(キャノン・エアー)」

空気の砲弾が防御体勢のバルトメロイに襲い掛かる。

「!!」

この連続攻撃は流石に効いたか後退し体制を立て直す。

それを見て士郎も距離を取り着地する。

その時、なぜかバルトメロイはその口元に凄惨な笑みを浮かべていた。

それが見えた訳ではないだろうが、士郎もまた着地してから悟っていた。

「・・・やっぱり同じ土俵じゃあ勝ち目はないか・・・そして誘い込まれたか」

士郎の言葉通り同じ系統の魔術で勝てる筈がない。

付け焼刃と研鑽を積み重ねてきた差は士郎の想像以上に大きく重い。

しかも、士郎が後退した先にあったのは罠だった。

丁度着地した場所から僅か一メートル範囲で結界がいつの間にか敷かれており、士郎が着地したと同時に結界が発動、風の刃が壁となって士郎を取り囲む。

天井は筒状に真っ直ぐ上空に伸びて、数十メートル先に出口が開いている。

出ようと思えば飛翔して出る事も出来る。

しかし、士郎がそこを出る事は極めて困難だった。

何しろその出口には既にバルトメロイが鎮座していたのだから。

「こうもこちらの思惑通りに動くとは・・・痛快を通り越して物足りなさすら覚えますね」

そう言うバルトメロイが握る鞭から桁違いの魔力が込められる。

そして鞭を士郎目掛けてかざすや鞭に込められた魔力が風をも取り込み、砲弾・・・それも戦艦の主砲クラスにまで膨れ上がる。

それは結界に丁度良い大きさにまで成長し、今度はゆっくりと回転を開始する。

「・・・此処は砲塔か」

「そうです。死体も、存在していた痕跡すら残さない。エミヤよこのまま消滅しろ」

そう言っている間にも回転はどんどん速まっていく。

「最後に一つ聞きましょう。エミヤ、なぜ他の魔術を使わないのです?」

「・・・ああそれか・・・俺はこの決闘、二つの系統魔術だけで戦う気でいたからな。だから他は使う気はないのさ」

「二つ?その忌々しい空気魔術と剣を呼び出す招聘魔術ですか?」

「さてどうかな?」

「・・・まあ良いでしょう戯言に時間を費やしましたね。もう終わりにしましょう。・・・放て」

語尾と同時に回転する砲弾はバルトメロイから離れ、回転しながら士郎に迫り来る。

あれを受ければ肉塊所か、細胞単位にまで切り刻まれ消滅する結末しかない。

幸い速度はさほど速くはない。

しかし遅い訳でもない。

どう長く見積もっても一分、だが、その一分の間にどうにかする事など不可能に近い。

逃げようにも周囲は風の壁がそびえ、砲弾もほぼ壁に密接しているので回避する事も出来ない。

「っ・・・我が手に集まりし空気、砲弾となり我が敵を滅ぼす(キャノン・エアー)」

士郎が空気での砲弾を撃つが、僅かに食い止めただけで士郎の砲弾は四散、バルトメロイの砲弾が着々と近付いて来る。

「くっ・・・まだ時間が足りない・・・我が手に集まりし空気、砲弾となり我が敵を滅ぼす(キャノン・エアー)、我が手に集まりし空気、砲弾となり我が敵を滅ぼす(キャノン・エアー)!」

だがそれでも士郎は次々と砲弾を発射、接近を食い止めようと試みる。

だが、それでも砲弾は止められない。

十発も撃つと士郎は発射を止めて、顔を俯かせてその場に立ち尽くす。

「ようやく諦めましたか。まあしぶとく足掻いた方ですね。本来であれば今頃消滅した筈ですから」

士郎が諦めたと確信したのか笑みを浮かべずに淡々と評し、その場から動く事無く、士郎の最期を見届ける。

そして十メートルまで迫った時、士郎は両手を砲弾の方向に突き出した。

「ぎりぎり間に合った!我が前面の空気鉄壁と化し全ての災い妨げる盾となる(シールド・エアー)!!」

その瞬間、砲弾の動きが急停止し何か頑丈な壁を削るようなけたたましい音を鳴り響かせる。

「!!」

その光景にバルトメロイも一瞬思考を停止させる。

あれを止められた事もさる事ながら、なによりも諦めたものと高を括っていた士郎の思わぬ行動がそれを加速させていた。

だが、直ぐに彼女の思考は動きを取り戻し、直ぐに士郎の行動の真意を悟る。

最初の砲弾の乱射はあの防壁を創り出す為に時間を稼ぐ為、そして防壁で更なる時間を稼ぐ間に脱出を試みるつもりだろう。

(させません)

そう判断するや移動を開始、士郎の側面を付こうとするが、遅かった。

僅かな時間に過ぎなかった思考停止こそが勝敗を分けた。

バルトメロイが移動を始めようとしたまさにその瞬間、士郎は風の壁ぎりぎりまで手を近付ける。

「我が手に触れし空気の魔力全て霧散せよ(ディスペル・エアー)」

士郎の詠唱と同時に風の壁は下から音もなく崩れ落ちる。

防壁が崩壊するのと士郎が脱出に成功したのはほぼ同時、バルトメロイと標的を失った砲弾が辿り着いたのはそれから数秒後だった。

「!!くっ!」

慌てて士郎を探すバルトメロイ、士郎本人はたやすく見つかったが、その時士郎は詰みの一手を打っていた。

「我が敵の周囲の空気、鎖となりて身を戒めさせよ(チェーン・エアー)」

同時にバルトメロイの動きがいきなり停止する。

見えない空気を鎖がバルトメロイの身体を完全に拘束した結果だった。

当然だが、バルトメロイも次々と鎖を粉砕するが粉砕した先から新たな鎖が産み出され拘束していく。

まさしくいたちごっこだった。

どうにかして拘束を打ち破ろうとするバルトメロイに士郎が近寄る。

「くっ!止めを刺す気ですか?」

「・・・いいや」

憎々しげに睨み付けるバルトメロイとは対照的に静かに彼女を見つめる士郎。

「・・・これからやる事は俺の自己満足だ・・・刻印起動(キーセット)」

エミヤの魔術刻印が新たな刻印を形作る。

「記憶領域(ゾーン・メモリー)」

そう言ってからバルトメロイの顎を上げさせる。

「・・・この動作で埋もれし記憶同じ動きで再び白日の下に(レバイバル・メモリー)」

詠唱を唱えてから静かに自然な動作で士郎はバルトメロイに口付けをした。

「!!」

思わぬ行動に一同騒然としたのは当然であった。

数秒後、自然に二人は離れ、バルトメロイはへたり込む。

いつの間にか拘束は解かれていたようだ。

「・・・」

一方の士郎も無防備にただ立っているだけ、攻撃等いくらでも出来そうに思えたが、なぜかバルトメロイは士郎を攻撃しようとしない。

それどころかその表情は困惑に満ちていた。

「・・・何ですか・・・これは・・・」

やがて搾り出すように呟いた声に今までの殺意は微塵もない。

「・・・これを信じるかどうかはあんた次第。だが、少なくてもエミヤ側の真実はこれだ」

士郎の言葉を聞きしばしその場で俯いていたが、やがて立ち上がると士郎の横を素通りし『クロンの大隊』のメンバーの元へ歩いていく。

「・・・殺す気も失せました」

最後にそう呟いてバルトメロイはメンバーと共にヘリに乗り込みこの地を後にした。









「・・・ふう・・・」

静かに大きく息を吐き出す士郎。

そこに

「ご主人様」

声に多分な棘を含ませたレイが真っ先に近寄る。

「はっはっは!やりおるのおエミヤ!」

「・・・」

何が気に入ったのか爆笑するイスカンダルと、どう声をかければいいか判らないディルムッドが並んで近寄る。

「どう言う事なのかしら?バルトメロイにいきなりキスするなんて」

「あーやっぱりそこに来るよな・・・」

内心凛達に見られずに済んでよかったと感謝する。

見られればこの程度では間違いなく済まない、おそらく殺される。

「まあ待たんか。まずは順序だてて説明させた方が良いだろう」

いきり立つレイを宥めるようにイスカンダルが割って入る。

「征服王の言う通りだな。なぜバルトメロイがエミヤ殿を殺す事を止めたのかそこも踏まえて説明していただかないと」

「そうだな。判っている、順序だてて説明するよ」

そう言って士郎は説明に入った。









「まずバルトメロイが言ったエミヤへの憎悪の理由だけど九割は本当だ」

まず士郎はバルトメロイがエミヤに抱いていた敵愾心の説明に入った。

此処から説明しない事には始まらないからだ。

「九割?」

「ああ、エミヤの先人の一人がバルトメロイの祖先と恋に落ち二人の間には子も産まれた・・・そして先人は姿を消した。彼女達を置き去りにして」

「ですが、バルトメロイの話だとエミヤの先人は」

「そう、そこを彼はあえて悪く改竄させたんだ記憶を」

「悪く改竄・・・だと」

「はい、恋に落ちたのではなく、言葉巧みに先人が言い寄りバルトメロイの祖先を弄び飽きた後は彼女を捨てたと」

「しかしどうやって・・・」

「エミヤの魔術のバリエーションは多岐にわたる。その中には記憶を司るものもある。その先人の前にエミヤの称号を受けた人は当時のエミヤの魔術使いのなかでは初めてとなる記憶の魔術に長けた人だったんだ。だからこんな事が可能だった」

「では記憶を操作したのですか?」

「操作というのは正しくないかもな強いて合う言葉を捜せば・・・上乗せかな」

「上乗せ?」

「つまり正しい記憶の上に偽り・・・正しい記憶に若干の改竄を加えた記憶を乗せた。全て偽りではなく一部を書き替えただけだったから記憶も上手く変えられたんだと思う。それにバルトメロイが先人との記憶を刻印に残していると聞いてもしかしたら解除も可能かと思ってみたんだが成功だったよ」

「しかし、そもそもなぜエミヤの先人とバルトメロイの祖先は出会ったのだ」

「詳しい馴れ初めは判りません。ただ、先人が『統べる者』に到達する為少しでもなんらかの力になるのであればと『時計塔』に入り、そこでバルトメロイの祖先と出会ったとしか・・・」

「ですがエミヤ殿、別れる必要はあったのですか?話を聞く限りでは二人は心底愛し合っていたのでしょう?ではこの地に留まり仲睦まじく暮らす選択もあった筈、なのに何故」

ディルムッドが憤懣やるかたない口調で問う。

彼自身、自分の過去と重ね合わせて思う所があるのだろう。

「・・・彼も俺と同じさ。捨てられなかったのさ。どれだけ自分勝手、独り善がりと断罪されようとも過去の先人達が全てを賭けて手を伸ばし続けた『統べる者』への夢を」

「・・・」

まだ言いたい事もあるのだろうが一先ずは口を噤む。

士郎の言葉の意味も彼は良く判っているのだから。

「でも、何でわざわざ自分を悪者に仕立て上げるなんて事までしたの?」

「別れる時にバルトメロイは全てを捨てて先人と共に行こうとした。だけどその時まだ彼らの間に成した子は幼く出産直後と言う事もあり彼女達を連れての過酷な旅は出来ないと判断しあえて自分を悪者に仕立て上げたんだと思う」

「そこじゃ。なぜその先人はあえて自分を悪く見せるような事をしたのじゃ。もっと上手く立ち回る術もあったであろうに」

「これは俺の憶測ですが・・・彼なりの贖罪だったのかも知れません」

「贖罪?」

「ええ、どんな大義名分を用いようにも自分を愛してくれた人を自分本位の理由で捨てる事に変わりはありません。だからこそ、自分を悪役とする事でしか贖罪を形にすることしか出来なかったのだと」

「そうだとすれば本当に自分勝手ね」

レイが一言で断罪する。

「だろうな」

士郎もレイの評価を苦笑しながら肯定する。

「じゃあ肝心な質問だけど・・・なんでバルトメロイとキスしたのよ?万が一にも何の関係のない行為だとしたら、ここで起こったある事、ない事全部皆に言いふらすわよ」

「はははっ・・・これについては先人に文句を付けてくれ。この記憶魔術、解除する為には設定した時と同じ動作をしなければならないんだ」

レイの脅しに引きつった笑みを浮かべて士郎は説明する。

「ふーん・・・本当に?」

信用していないのだろう、レイがじと目で見る。

「こればっかりは信じてもらうしかないけどな・・・」

「まあ良いわ。今はご主人様の言葉信じてあげる。その代わり嘘だったら・・・」

「大丈夫だって」

「さて、そろそろ戻るか。そろそろ子娘達も騒ぎ出しかねん」

「そうですね。一応メディア殿には辻褄を合わせる様にお願いしていますが、万一にもそこから今回の事がばれても事です。ロンドンに戻りましょう」

「ああ、そうだな」









そして翌日。

「士郎」

退院した士郎に凛が声をかける。

見れば全員揃っていた。

幸いな事に昨日の事は凛達に一切発覚していない。

「ああ、凛」

「昨日はついかっとしちゃってごめんなさい」

「ああ、別にいいさ。皆が怒るのも当然だし」

「それで士郎、もうあれを捨てろとは言わない。だけど多用、それも協会の目の届く範囲で使う事だけはやめて」

「その事か。もとより易々使う気はないさ。これの消費魔力は通常魔術よりも上なんだ」

「そうなの?」

「ああ、元々、先人は魔術を残す為にこれを創ったのであって、使う事は想定していなかったから」

それを聞き一先ずは安堵する。

とそこに

「エミヤ」

バルトメロイがこちらに歩み寄ってきた。

見れば『クロンの大隊』の隊員は誰一人いない。魔道要塞復興に総員を向けているのだろう。

『!!』

バルトメロイを確認してアルトリア達が士郎を守るように立ち塞がる。

だが、バルトメロイに今までの殺意は微塵も感じられない。

その事に困惑していると更に思わぬ言葉が飛び出した。

「そうも敵意を出さないでほしい。もうエミヤを殺す気は失せている」

思わぬ言葉に唖然とする一堂を尻目にバルトメロイは士郎に話しかける。

「エミヤ。どうやら貴方の言葉に偽りはなさそうですね。忌々しい事ですが貴方が言った『真実』を見て以来、刻印から発せられていたエミヤへの怨念は奇麗さっぱり消えてしまった。しかし」

「判っている。この件についてはこちらの先人の罪だ。それについては言い逃れるつもりはない。俺にどうにか出来るとは思わないが可能な限りの償いはする」

殺す気が失せたと言うバルトメロイの言葉通り士郎に手を掛ける気配は一向に見受けられない。

それでも士郎を見る眼光には鋭さと刺々しさは未だ残っているが。

「・・・ほう、可能な限りの償いをすると言うのですか?」

「俺に出来る限りだが」

そう言った士郎にバルトメロイが不敵な笑みを浮かべた。

「では、償いをするつもりがあると言うのならば一つ要求する事があります」

「ああ、何だ?」

士郎を始め全員に緊張が走る。

しかし、このときバルトメロイが発した要求は全員の想像の範囲を大きく逸脱していた。

「エミヤ、私と子を成せ」

しばしの沈黙が周囲を包み込んだ。

「・・・え?」

しばらく後ようやく士郎が掠れた声で一言発した。

ちなみに他のメンバーはあまりの言葉に真っ白になるのを通り越して石化していた。

若干名、どのような顛末を迎えるか心底楽しみにしている者もいるが。

「何です?判らなかったのですか?私を孕ませろと言ったのです」

「・・・いや、ちょっと待て」

此処でようやく思考が追いついた士郎が言葉を発した。

「何でいきなりそうなる?」

「不満ですか?情報だと性交渉した際男性は著しい性的快楽を得られると聞いていますが」

「いやいやいや!その情報は正しいが違うだろう!」

「不服ですか?一応私は処女ですが」

「だから!!俺が言いたいのは何でいきなりそんな要求を発するのかと聞いているんだ!」

「これもエミヤの責任ですが」

「??」

「『真実』を見て以来刻印が別の命令を下し始めたのです。『エミヤと子を成せ』と。我が祖先のエミヤへの思慕の深さが伺えると言うものでしょう」

これが表情を朗らかにしたり頬を若干でも赤らめていればまだ士郎も言葉を発せられるが、当のバルトメロイ本人は表情を変える事無くむしろ大真面目に言っているのだから性質が悪い。

「それにあれ以来、我がバルトメロイは血を混ぜる事無く今日まで来ました。そろそろ新しい血を入れる事も悪い事ではないでしょう」

そう言って自己完結したバルトメロイは士郎に歪な形の鍵を放り投げる。

それを咄嗟に受け取る士郎。

「私は別荘にいます。それを見せれば大隊の者も邪魔はしません。それは私が孕むまで持っていて下さい。子を成すまで何度でも来て頂いて結構ですので」

そう言って振り返る事無くバルトメロイはその場を後にした。

後に残されたのは文字通り頭を抱える士郎とそろそろ再起動を果たしつつあるアルトリア達、そしていいネタが見つかったと愉悦の笑みを浮かべる若干名だけだった。

「・・・なんでこうなる・・・」

やがてシロウは呻く様に言葉を搾り出す。

こんな事は予測の範囲外だ。

士郎としてはバルトメロイとエミヤの怨念(バルトメロイの一方的)を晴らす為にあえて決闘を挑んだだけだと言うのに・・・

しかし、士郎には現状を嘆く暇は実の所与えられていなかった。

「衛宮君」

後ろから朗らかな、だが、その中に抑える事が容易に判断出来る殺意を込めて凛が士郎に声をかけて、肩に手を置いた。

「逃げるべきだった・・・」

悔いるがもはや遅い。

「ちょっと説明して貰うけど良いわよね?」

「・・・はい・・・」

項垂れて凛達に連行される士郎。

その心境は死刑執行目前の死刑囚だった。

だが、幸いというかそれ所ではない事態が起こった。

ようやくロンドンにも『シリウリの戦い』の情報が届いたのだ。

そう、志貴の失明と言う重傷の報も。

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